
分裂文(cleft)とは、基本となる元の文を2つの部分に分割することによって作られる文のことです。特にit-分裂文(受験英語ではこれを強調構文と呼んでいます。)では、[ダミー主語のit] is+[取り出した要素]+[that, who, which]+[元の文の残りの部分]という構造になっています。
※分裂文と言えば他にwh節を用いた疑似分裂文があります。
ではIt is P+that Qの形を見た時にこれがit-分裂文(強調構文)であるかどうか、ということを検討したいと思います。詳しくは別記事で書きますが、ここではPが名詞(句)である場合の例文を検討してみます。
見せかけの強調構文1-名詞句-
(例)次の2つの会話を比較せよ(出典:CGEL)
(ⅰ)
A: I hear they sacked the secretary.
B: No, it’s the director who was sacked.
「A:彼らは事務官をクビにしたらしいね。 B:いや、クビにされたのは局長のほうだよ。」
→Bの発言はThe director was sacked.のit-分裂文(強調構文)です。
(ⅱ)
A: Who’s that talking to the police?
B: It’s the director who was sacked.
「A:警官と話しているあの人は誰ですか? B:クビにされた局長です。」
→Bの発言のitは前文のthat「あの人」を受ける指示代名詞であり、who was sackedはthe directorにかかる関係詞節です。
このように、Pがthe+単数名詞の場合は一概にit-分裂文(強調構文)であるとは言えないです。このように、文脈に応じてその都度判断する必要があります。しかし、Pが名詞句の場合でも(可能性の面から)ある程度判断がつく場合があります。
1°)It is [名詞] that…でit-分裂文(強調構文)の可能性がほぼ100%のもの
1. 複数形の名詞→一般的にIt is [複数形の名詞]と言うことはあまりないでしょう。
2. 代名詞、固有名詞、this+名詞など→that(あるいはwhich)が関係代名詞だとすると、非制限用法で用いるためコンマ+関係代名詞となるはずです。
2°)it-分裂文(強調構文)の可能性が低いもの
名詞の部分が[a/ an]+名詞かつ修飾語が何もついていない場合、it-分裂文(強調構文)の可能性は極めて低いです。(修飾語がついている場合はit-分裂文(強調構文)の可能性はまだそれよりは高いかもしれないです。)
→これはit-分裂文(強調構文)の総記性と排他性に関連づけると話が分かりやすいです。以下の例文を見てみましょう。
(例)It’s you who I love.
「僕が愛しているのは他ならぬ君だ。」
→君は僕が愛しているもののすべてであり(総記的)、君以外は誰も愛していない(排他的)ことを暗に含んでいます。
この例文が示すように、it-分裂文(強調構文)では前提となっている条件(that以下のQの部分)について、その条件を満たす値(P)を述べるのがもっとも典型的な形です。この値は総記的であり、つまりその値が条件を満たすもののすべてであり、排他的である、つまりその値以外は条件を満たさないことも含んでいます。
→この事実を踏まえると、a+名詞がPの部分に来た場合、冠詞aの単一選択性(いくつかあるうちの1つを自由に選択する)と先ほど言及した排他性(その値以外は条件を満たさない)との相性が悪く、it-分裂文(強調構文)になる可能性が低くなると言えそうです。
→ただし、It is+a [単数名詞]+that…が常にit-分裂文(強調構文)ではないかというと、そうとも限りません。
(例)Yet certain features of the contemporary world are quite new. For example, I can pick up the phone and speak to a relative on the other side of the globe, and I can see that it is indeed a globe that I inhabit by looking at a photograph taken from space.(京大2003後期)
【文脈】
科学は重要であるということを科学技術、そして社会の面から論じた文章からです。世の中は昔からほとんど変わっていない、という内容の後に続く部分です。
【訳例】
しかし、現代社会のある特徴はかなり新しいものである。例えば、私は電話を取って地球の反対側にいる親戚と話すことができるし、宇宙から撮影された写真を見ることで、自分が住んでいるのが確かに球体であることを確かめることができる。
→it is indeed a globe that I inhabit.はI inhabit a globeのit-分裂文(強調構文)です。
→the globeは「地球」の意味になりますが、a globeは単に「球体」の意味です。the moon「(地球から見た衛星という共通認識としての)月」とa moon「衛星」の関係性に似ています。
→これは自分の考えですが、この例ではa globe「球体」と言いつつも、これが「(地球である)球体」であることを暗に示しているために、冠詞aの単一選択性とit-分裂文(強調構文)の排他性が矛盾していないのかな、と思います。
念のため、文脈に即してit-分裂文(強調構文)かどうか判断することが必要です。
見せかけの強調構文2-副詞句-
It is+[副詞句]+that…の場合、it-分裂文(強調構文)である可能性は高いでしょうが、こちらもそうはならない場合があります。
※「It is+[副詞句]ときたら強調構文だ!」とする指導をどこかで受けたことがありますがこれは間違いです。
(例)見せかけの強調構文2(出典:英文読解の原則125)
A: Where is your dog?
B: It’s in the park that is near the office.
「A:君の犬はどこにいるの? B:会社の近くの公園にいるよ。」
→Bの発言は強調構文ではなく、itはyour dogを受ける指示代名詞、thatは関係代名詞です。
結論として、be動詞とthat(あるいはwho which)で挟まれた要素が複数形の名詞や代名詞、固有名詞、this+名詞などの場合はこれはit-分裂文(強調構文)と断言してもよさそうですが、そうでない場合は文脈に応じて判断する必要があるでしょう。
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あとがき
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