目次
問題
(1)\(0 \leq x \leq \frac{\pi}{2}\)のとき,不等式\(\frac{2}{\pi}x \leq sinx\)が成り立つことを証明せよ.
(2)不等式\(\int_0^\pi e^{-sinx} dx \leq \pi(1-\frac{1}{e})\)が成り立つことを証明せよ.
(00 和歌山大・システム工)
方針
(1)「今週の不等式No.1 ジョルダンの不等式」そのものです。ジョルダンの不等式について詳しく知りたい方は以下の記事を参照してください。
(2)まず、積分区間が\(0 \leq x \leq \pi\)となっており、(1)の不等式が適用できない範囲が含まれています。ですので、
①\(0 \leq x \leq \frac{\pi}{2}\)の部分のみを(1)で評価し、残りの部分は別の手法を考えて不等式評価する
②(1)の不等式を全範囲で適用できるようにうまく積分変数の変換をする
のいずれかを行わないといけませんが、\(sinx=sin(\pi -x)\)が成立することより、直感的に②の方針のほうが適切であると判断できます。
次に、中身の関数が積分後初等関数では記述できず(たぶん)、高校数学の範囲では積分できない形になっています。このように、計算できないor計算するのに手間がかかる定積分を評価するには以下のような手法があります。
定積分の評価
計算できない、あるいは計算が厄介な定積分を見た時にその計算結果を見積もりたい!、となればまずするべきことは定積分の評価ですが、
\(a \leq x \leq b\)において、\(f(x) \leq g(x)\)ならば、\(\int_a^b f(x) dx \leq \int_a^b g(x) dx\)が成立します。(定積分は不等号を保つ)
ゆえに、定積分は不等号を保つから、中身の関数のほうを評価することになります。では、具体的にどのような評価方法があるのかをざっくり説明していきます。(さらに詳しい内容は定積分の評価だけの記事を後々投稿しますので、そちらのほうをご覧ください。)
①\(f(x)\)の\(a \leq x \leq b\)における最大値・最小値で抑える。(長方形の面積と定積分を比較しています。)(一番緩いがこれでうまくいくことが高校数学では大半)
②\(f(x)\)のグラフの接線や割線などよって三角形や台形の面積と定積分を比較する。
→以上2つの手法が一般に面積評価と呼ばれるものです。
③積分区間を分割して評価する。(誤差が縮まります。)
④一番端の項などの誤差が大きい項は残して評価する。(滅多にこのケースはありませんが、過去に一度だけこの手法を要する入試問題に遭遇したので紹介しておきます。)
→以上2つの手法は①や②では評価が十分ではないときに評価をより精密にするために使用します。ほぼ使いませんが、知っておいて損はないでしょう。
以上4つの手法は中身の関数の形状がわかり、そのグラフも容易に書ける関数に対して用いることが多いです。
では次に、\(f(x)\)が関数の積や商で表せる複雑な関数のときの評価方法を紹介して定積分の評価の説明を終えます。
⑤\(f(x)\)が\(g(x)h(x)\)や\(\frac{g(x)}{f(x)}\)などのときは、\(g(x)\)、\(h(x)\)いずれか一方のみを①から④の手法を用いて評価する。(高校数学においては、ほとんどの場合①のみでよい)
また評価するときは、分母のほうを評価することが多く、積分して0になる量や、無限大になる量は残してそれ以外の部分も評価することも多いです。
これに関しては分かりにくいと思いますので具体例を2つ挙げておきます。
(例題) \(I_n = \int_0^\frac{1}{2} \frac{x^{2n}}{1-x^2} dx \)について,\(\displaystyle \lim_{n \to \infty} I_n\)を求めよ.
分母の関数について、\(1 \leq \frac{1}{1-x^2} \leq \frac{4}{3}\)であり、\(x^{2n} \geq 0\)であるから、
\(x^{2n} \leq \frac{x^{2n}}{1-x^2} \leq \frac{4}{3}x^{2n} \)が成立し、各辺を\(x\)で\(0\)から\(\frac{1}{2}\)まで積分して、
\(\frac{1}{2^{n+1}(2n+1)} \leq I_n \leq \frac{4}{2^{n+1} \cdot 3(2n+1)}\)
ゆえにこの式で\(\displaystyle \lim_{n \to \infty}\)とすると、はさみうちの原理により、\(\displaystyle \lim_{n \to \infty} I_n =0 \)となる。 (答え)
解答
(1)ジョルダンの不等式より主張は正しい。(証明おわり)
※実際に答案を書く時は上記のような証明をきちんと記述してください。今回は既に記述しているので割愛しているだけです。
(2)\(I_1 = \int_0^\frac{\pi}{2} e^{-sinx} dx \)、\(I_2 = \int_\frac{\pi}{2}^\pi e^{-sinx} dx \)とおくと、与式の左辺の積分は、\(I=I_1+I_2\)と表せる。
ここで、\(t=\pi-x\)と置換すると、
\(x:\frac{\pi}{2}→\pi\)のとき、\(t:\frac{\pi}{2}→0\)
\(dt=-dx\)
であるから、
I_2 &=-\int_\frac{\pi}{2}^0 e^{-sin(\pi-t)} dt \\
&=\int_0^\frac{\pi}{2} e^{-sint} dt \\
&= I_1
\end{align}
となるから、結局、\(I=2I_1\)となる。
\(I_1\)の積分範囲は、\(0 \leq x \leq \frac{\pi}{2}\)であるから、(1)の不等式が適用できる区間であり、不等式\(\frac{2}{\pi}x \leq sinx\)が成り立つことから、\(-\frac{2}{\pi}x \geq -sinx\)が成立し、関数\(f(x)=e^{-x}\)は単調減少することから、\(e^{-sinx} \leq e^{-\frac{2}{\pi}x}\)が成立する。
定積分は不等号を保つから、\(I=2\int_0^\frac{\pi}{2} e^{-sinx} dx \leq 2\int_0^\frac{\pi}{2} e^{-\frac{2}{\pi}x} dx \)が成立し、右辺の定積分は計算できる形なので計算を進めていくと、
2\int_0^\frac{\pi}{2} e^{-\frac{2}{\pi}x} dx
&= -2 \cdot \frac{\pi}{2} [e^{-\frac{2}{\pi}x}]^\frac{\pi}{2}_0 \\
&= -\pi(\frac{1}{e}-1) \\
&= \pi(1-\frac{1}{e}) \\
\end{align}
となり題意の式が証明された。(証明おわり)
あとがき
最後まで閲覧していただきありがとうございました。
今回の入試問題解説のほう、いかがだったでしょうか。数学では入試問題1問から学ぶべきことが多くあると思います。復習して解法をどんどんと溜めていきましょう!
解説の感想のほど、SNSでシェアあるいはDMにて気軽にお聞かせください!今後の当サイト改善に役立てます。
今後も定期的に更新していきますので、ブックマークやツイッターアカウントのフォローのほうぜひしてみてください!
当サイトがいいな、と思った方はぜひ知人・友人に勧めてみてください!
当サイトについての質問・問い合わせなどは当サイトのフォーラムへコメントまたは自分の個人用のツイッターアカウントにDMをくだされば幸いです。(アカウントは@skrdy0121です。)
最終更新:2020 9/15(Tue.)