
目次
問題
\(4^n+4n^2+1\)が平方数となる自然数\(n\)を全て求めよ。
(創作問題 by京都大学理学部2回生の友人)
方針
まずは整数問題の基本方針についておさらいしておきましょう。
整数問題の基本方針3つ
1. 約数・倍数に注目する(因数分解を伴うことが多い)
→式\(1\)つが式\(2\)つになるというとても強力な手段です。整数問題では文字変数に対して式の数が不足している場合がありますが、その不定性の解決策の1つがこの因数分解になるわけです。整数問題ではまず因数分解可能性を考慮してみるとよいでしょう。
特に、素数が登場する場合で因数分解できるのであれば(積の形)=(素数の累乗)と変形することが多いです。
因数分解をするために以下の②③を用いることもあれば、逆に①を用いて式を増やした後に②③を利用することもありますので、そこは臨機応変にいきましょう。
2. あまりに注目する(\(\mathrm{mod}2,3,4,5,7,8\)あたりを考えたり、素数が絡んだりすることが多い)
→特に、実験をすることが多いです。(近年の京都大学の入試問題を見てみましょう。)
「素数であることを示せ」「素数になる条件を求めよ」の類はたいてい、(ⅰ)実験により規則を発見して有名な\(\mathrm{mod}\)での論証 (ⅱ)背理法 (ⅲ)ユークリッドの互除法のいずれかで解決します。
3. とりうる範囲に注目する(分数型の不定方程式や関数の発散スピード)
→分母のほうの次数が高いとき、整数になる場合が限られることや、多項式関数、指数関数では代入する値が大きくなると関数の増加スピードが圧倒的に違うことを利用することが多いです。
→本問では
実験してもこのタイプの問題が初見だとどう攻めれば良いのか対処しにくいです。(慣れている方であれば実験段階で何か気づくかもしれません。)
まず何も考えずに平方数であることを定式化してみましょう。\(m\)を整数として、
\(4^n+4n^2+1=m^2\)
となりますが、例えば2乗の差の形にして積の形を作成して因数分解しようとしてもうまくいきません。例えば、
\(4n^2+1=(m+2^n)(m-2^n)\)
といった式変形から約数・倍数を絞り込むことです。(←勘のいい方はここで何か気づくはずです。)
ここで、両辺ともに正であり、特に\(4n^2+1>0, m+2^n>0\)だから残った部分の\(m-2-n\)も正(正確には\(1\)以上)となり、また右辺には\(m+2^n\)の項があることから、右辺はどう頑張ろうとも、少なくとも
\((m+2^n)(m-2-n) \geq (1+2^n) \cdot 1 = 2^n+1\)
以上になりますね。となると、右辺は指数関数のスピードで増加していきますが、左辺は\(n^2\)という多項式関数のスピードで増加していきます。ここで関数の種類によって増加スピードが全然違うことを確認しておきましょう。
関数のオーダー
\(x\)が十分大きいとき、(\(x\)の対数関数)\(\ll\)(\(x\)の多項式関数)\(\ll\)(\(x\)の指数関数)となる。
※ただし、対数関数と指数関数の底は\(1\)より大きいものとする。
→一見信じがたいことですが、\(\displaystyle \lim_{x \to \infty}\)の極限では、例えば\(2^x\)は\(x^{1000000}\)よりも圧倒的に大きくなるという感覚です。
→証明は長くなるので省略しますが①指数関数のマクローリン型の不等式を用いる方法 ②ロピタルの定理を用いる方法 など色々あります。是非自分で一度証明してください。
→大学数学ではこのような関数のオーダーをランダウの記号というものを用いて表現します。(大学1回生の微分積分学の内容です。)このランダウの記号はプログラミングの際の計算速度にも登場する面白いものです。こちらも興味がある方は後で検索してみてください!
→本問では
今回だと、\(4n^2\)と\(2^n+1\)の大小関係が分かれば良さそうです。\(+1\)なんで正直今回は誤差なので\(4n^2\)と\(2^n\)の大小関係でも良さそうです。しかも都合の良いことに、多項式関数の次数が2次とそこまで高くないので\(n\)がちょっとでもデカくなると指数関数の方が大きくなってくれます。(←このアバウトな感覚がとても大切です!)
では、どちらが大きいかを証明するにはどのようにすればよいでしょうか?先ほどマクローリン型の不等式やロピタルの定理など難しいことを良いましたが、多項式関数が2次式程度であれば、①\(n\)が一定以上の数学的帰納法 ②\(2^n=(1+1)^n\)とみて2項定理で多項式関数に帰着させる がオーソドックスではないでしょうか?(もちろん他に証明方法はたくさんありますが)
→\(n\)が一定以上と言いましたがこのような一定値は自分で手を動かして実験することで求めてください。
この部分の不等式は問題文の誘導がついていることもあれば(神戸大学の過去問で出題あり)、ついていないこともあります。(本記事下の京大模試の類題)難関大になってくると自分で不等式をその都度証明する必要があることも多いので、自分なりにしっくりくる証明方法は持っておくと良いでしょう。(誘導で不等式があれば範囲に着目することが丸わかりですから笑)
ここまで誘導すればおそらく解答することはできるでしょう。ですが、解答をもう少しスマートにする考え方を提示しておきましょう。(以下の視点も非常に大切です。)
そもそも平方数になるとはどういうことでしょうか?結論から言うと何らかの整数の2乗で書けていれば平方数になります。(逆も然り)裏を返せば、何らかの整数の2乗とその次の整数の2乗の間は平方数でない数で埋まっていることになります。(例えば、\(4,9\)はそれぞれ平方数ですが、間に存在する\(5,6,7,8\)は平方数ではありませんよね。)
このような観点から次の問題を処理することができます:
(類題)整数問題・平方数のうまい処理
\(n\)を自然数とする。このとき\(n^2+n\)は平方数とならないことを示せ。
(典型問題)
(解答)
\(n \geq 1\)だから、\(n^2 < n^2+n < n^2+2n+1 = (n+1)^2\)が成立するので\(n^2+n\)は平方数とならない。(証明おわり)
→もちろん\(n,n+1\)が互いに素であることを利用して平方数と互いに素の議論に帰着させたり、\(n^2+n=m^2\)としてから\(n\)について平方完成して2乗の差の形を作成して因数分解しても構いません。
平方数と互いに素の議論はこちらを参照してください:【入試数学演習No.12】今週の整数問題No.1 解答・解説 | Sacramy
→本問でもこんな感じでうまく不等式で挟んでスマートに解答しておきます。(もちろんここまでの思考過程のように「先に因数分解して無理だったから範囲に注目したよ!」みたいな答案でも大丈夫です。)
→はじめに「実験すると…」と言いましたが、勘の良い方であれば実験段階からこのように平方数で挟めることに気付くかもしれません。
解答
\(4^n=(2^2)^n=(2^n)^2\)であり、\(4n^2+1>0\)より明らかに、
\((2^n)^2 < 4^n+4n^2+1\)
が成立している。また、\((2^n+1)^2=4^n+2^{n+1}+1\)だから、もし\(4n^2 < 2^{n+1}\)であれば、
\((2^n)^2 < 4^n+4n^2+1 < 4^n+2^{n+1}+1 = (2^n+1)^2\)
となってしまい、\(4^n+4n^2+1\)は平方数となり得ないことが分かる。\(4n^2 < 2^{n+1}\)ということは\(n^2<2^{n-1}\)となる場合を考えればよく、このような\(n\)の条件を考える。以下では数学的帰納法によって\(n \geq 7\)のときこの不等式が成立することを補題証明する。
(補題)
\(n \geq 7\)のとき\(n^2<2^{n-1}\)となる。
(補題の証明)
(ⅰ)\(n=7\)のとき
\(7^2=49 < 64 = 2^{7-1}\)より主張は正しい。
(ⅱ)\(n=k\)(\(k \geq 7\))で成立するとき
2^{(k+1)-1}-(k+1)^2 &= 2^k-k^2-2k-1 \\
&> 2k^2-k^2-2k-1 \\
&= k^2-2k-1 \\
&= (k-1)^2-2 \\
&> (7-1)^2-2=34>0
\end{align}
※ただし1行目から2行目の不等式では帰納法の仮定を用い、下から2行目の不等式では\((k-1)^2-2\)の\(k\)を実数全体に拡張したときこのグラフの軸が\(k=1\)であり、\(k>1\)で単調増加することを用いた。
よって\(n=k+1\)のときも主張は正しい。
ゆえに、\(n \geq 7\)となるすべての自然数\(n\)に対して\(n^2<2^{n-1}\)となることが分かった。(補題の証明おわり)
以上のことから、題意を満たす可能性があるのは\(n \leq 6\)の場合に限られることが分かる。
\(f(n)=4^n+4n^2+1\)とおいて順に調べていくと、
f(1) &= 9 \\
f(2) &= 17 \\
f(3) &= 101 \\
f(4) &= 321 \\
f(5) &= 1125 \\
f(6) &= 4241 \\
\end{align}
だからもとめる\(n\)は\(1\)のみである。(答え)
注意
1°)整数問題では「初めは大雑把に、最後に精密に」という感覚が非常に大切である。
→本問でははじめ大雑把に多項式関数と指数関数のオーダーから、\(n\)がある程度大きいと与式が成立しないことを予想し、数学的帰納法で不等式を証明した後、残りの部分を議論しました。この感覚です。
類題
では最後に類題を紹介しておきましょう。本問と同じで多項式関数と指数関数を含んでいます。同じように範囲の視点で問題を眺めてみると良いでしょう!
(類題)範囲に注目・多項式関数と指数関数
整数\(a,b\)(\(1 \leq a \leq b\))に対して,、方程式
\(2^a+2^b=a^2+b^2\)
を考える。この方程式を満たす整数の組\((a,b)\)をすべて求めよ。
(京大実戦模試2020年 11月 理系数学大問4)
(解答)
順次掲載します。
あとがき
最後までご覧いただきありがとうございました。Twitter上で毎週金曜日の夜にハッシュタグ「今週の整数問題」をつけて問題を投稿しています。是非解いてみてください!解説記事も順次作成していきます。
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前回の整数問題は以下の記事からご覧になることができます。