
目次
問題
\(p, q, r\)を素数, \(n\)を自然数とする。
\(p^2=q^2+r^n\)
を満たす\(p,q,r,n\)の組\((p,q,r,n)\)をすべて求めなさい。
(京都・大阪数学コンテスト 平成29年度)
方針
まずは整数問題の基本方針についておさらいしておきましょう。
整数問題の基本方針3つ
1. 約数・倍数に注目する(因数分解を伴うことが多い)
→式\(1\)つが式\(2\)つになるというとても強力な手段です。整数問題では文字変数に対して式の数が不足している場合がありますが、その不定性の解決策の1つがこの因数分解になるわけです。整数問題ではまず因数分解可能性を考慮してみるとよいでしょう。
特に、素数が登場する場合で因数分解できるのであれば(積の形)=(素数の累乗)と変形することが多いです。
因数分解をするために以下の②③を用いることもあれば、逆に①を用いて式を増やした後に②③を利用することもありますので、そこは臨機応変にいきましょう。
2. あまりに注目する(\(\mathrm{mod}2,3,4,5,7,8\)あたりを考えたり、素数が絡んだりすることが多い)
→特に、実験をすることが多いです。(近年の京都大学の入試問題を見てみましょう。)
「素数であることを示せ」「素数になる条件を求めよ」の類はたいてい、(ⅰ)実験により規則を発見して有名な\(\mathrm{mod}\)での論証 (ⅱ)背理法 (ⅲ)ユークリッドの互除法のいずれかで解決します。
3. とりうる範囲に注目する(分数型の不定方程式や関数の発散スピード)
→分母のほうの次数が高いとき、整数になる場合が限られることや、多項式関数、指数関数では代入する値が大きくなると関数の増加スピードが圧倒的に違うことを利用することが多いです。
→本問では
式を見るといかにも因数分解できそうな形をしており、
\(p^2-q^2=r^n\)
となるので、2乗の差の形を作れ、さらに右辺の素因数は素数の累乗しかないので、因数分解をして約数・倍数に注目すると議論が進みそうです。その後は、因数分解のみならずあまりに注目して進めていくことになるのですが、要所要所にポイントがあるため、一度解答を書いてからそれに対してフィードバックする形で解説していきたいと思います。
それではいったん解答へどうぞ!
解答
与式を変形すると、
\((p+q)(p-q)=r^n\)
となり、\(p+q>0,r^n>0\)より\(p-q>0\)であり、\(p+q>p-q\)であるから、整数\(a,b\)を用いて、
p+q &= r^a \\
p-q &= r^b (0 \leq b < a \leq n)
\end{align}
と書ける。これら2式を足し引きすることで、
2p &= r^a+r^b \\
2q &= r^a-r^b
\end{align}
と書ける。ここで\(r\)が偶数(\(2\))か奇数(奇素数)かで場合分けをして議論する。
(Case1)\(r\)が\(2\)のとき
\(2p=2^b(2^{a-b}+1)\)
となる。さらに\(p\)が\(2\)か否かで場合分けしておく。
(Case1-1)\(p=2\)のとき
\(4=2^b(2^{a-b}+1)\)
となる。\(2^b \geq 1, 2^{a-b}+1 \geq 1+1=2\)であり、\(2^{a-b}+1\)の部分は\(a-b \geq 1\)のとき\(3\)以上の奇数になってしまい不合理なので、\(2^{a-b}+1=2\)しかあり得ない。このとき\(2^b=2\)である。これを解くと、\((a,b,n)=(1,1,2)\)を得る。しかしこのとき、\(2q=2-2=0\)となり\(q\)が素数であることに反し不合理。
※追記:ご指摘頂きましたように、そもそも\(p-q>0\)かつ\(p,q\)は素数という条件から\(p \neq 2\)を直ちに導くことができるので、(Case1-1)の議論は二度手間でした。
(Case1-2)\(p\)が奇素数のとき
\(2p=2^b(2^{a-b}+1)\)
について、先ほどと同様に\(2^{a-b}+1\)の部分は\(a-b \geq 1\)のとき\(3\)以上の奇数になるため、\(2\)を約数としてもつことはない。\(a-b=0\)のときは、ちょうど\(2\)になるが、この場合上式の残った部分を考えると、\(p=2^b\)となり\(p\)が奇素数であることに反し不合理。ゆえに、
2^b &= 2 \\
2^{a-b}+1 &= p
\end{align}
を得る。これを解くと、\(b=1, p=2^{a-1}+1\)である。
また、\(q\)に関しては、
\(q=2^{a-1}-1\)
となっている。ここで簡単のために\(a-1=m\)(\(m \geq 0\))とおく。次に\(m\)が偶数か奇数かで場合分けする。
(Case1-2-1)\(m=2l\)(\(l\)は\(0\)以上の整数)のとき
q &= 2^{2l}-1 \\
&= (2^l+1)(2^l-1)
\end{align}
と因数分解でき、\(2^l+1 > 2^l-1 \geq 0\)であり、\(2^l-1\)のほうが小さい。もしこちらが\(2\)以上の自然数になると\(q\)は\(2\)以上の素因数を複数個持つことになるので素数ではなくなり不合理。
ゆえに、\(2^l-1=1\)つまり\(l=1\)を得る。このとき、\(m=2, a=3\)であり、\(n=3+1=4\)である。また、
p &= 2^2+1=5 \\
q &= 2^2-1 =3
\end{align}
となり、\(p,q\)はどちらも素数で条件を満たす。ゆえに\((p,q,r,n)=(5,3,2,4)\)である。
(Case1-2-2)\(m=2l+1\)(\(l\)は\(0\)以上の整数)のとき
p &= 2^{2l+1}+1 \\
&= (2+1)(2^{2l}-2^{2l-1}+ \cdot +1) \\
&= 3(2^{2l}-2^{2l-1}+ \cdot +1)
\end{align}
となるが、
\(2^{2l}-2^{2l-1}+ \cdots +1 \geq 2^{2l}+1 \geq 2^0+1 =2\)
となり、\(p\)は\(2\)以上の素因数を複数個持つことになるので素数ではなくなり不合理。
(Case2)\(r\)が奇素数のとき
\(2p=r^b(r^{a-b}+1)\)
について、\(r^b\)の部分が素因数\(2\)を持つことはなく、どちらの項も正だからあり得るのは次の2つの場合である。
\((r^b,r^{a-b}+1)=(1,2p),(p,2)\)
前者の場合、\(b=0\)であり、\(r^a+1=2\)で\(\displaystyle (p,q)=(\frac{1}{2}(r^a+1),\frac{1}{2}(r^a-1))\)となるが、\(p-q=1\)だから\(p,q\)のいずれかは必ず偶数になる。偶数の素数は\(2\)しかないから、\((p,q)=(3,2)\)と分かる。ゆえに\(r=5, a=1, n=1+0=1\)となり、\(r\)も素数で条件を満たすから、\((p,q,r,n)=(3,2,5,1)\)である。
後者の場合、\(r^b=p\)で\(p\)が素数であることから\(b=1,r=p\)となり、\(r^{a-1}+1=2\)から\(r^{a-1}=1\)つまり\(a=1\)を得る。しかし、\(2q=r^1-r^1=0\)となり\(q\)が素数であることに反し、不合理。
以上の議論から、求める組は\((p,q,r,n)=(5,3,2,4),(3,2,5,1)\)(答え)
注意
1. 因数分解とその値の絞り込み
1°)因数分解をして積の形を作成した後、いきなり候補となる組をすべて書き出すのではなく、積の部分の正負や大小関係、さらには偶奇の一致や相違などに注目してある程度は候補を絞ってから議論を進めていくべきである。
→本問でも因数分解をした後、候補をむやみに全て書き出すのではなく、ある程度大小関係や偶奇を見てから式変形を進めました。
候補をすべて調べていてはかなりの時間がかかってしまうことになってしまいます。特に(積の形)=\(10000\)だったとします。\(10000\)の約数なんてかなり多くありますし、そこに正負の可能性も考慮すると候補1つ1つを調べるのには心が折れそうになります。
2°)因数分解ができたならばとにかく式に起こすべきである。
→本問では、\((p+q)(p-q)=r^n\)という式から\(p+q,p-q\)はどちらも素因数\(r\)だけで構成されていることは(日本語として)分かるのですが、整数\(a,b\)を導入することでその先の議論を進めることが可能になっています。
3°)条件の弱い文字を消去した方が議論が進みやすい
→本問ではこの考え方には触れませんでしたが、【入試数学演習No.13】今週の整数問題No.2 解答・解説 | Sacramyなどの考え方を参考にしてください。
2. 素数
素数が登場した場合以下のような議論に持ち込むことが多い。
1°)因数分解できるのであれば(積の形)=(素数の累乗)と変形して議論を進める。
→本問では、\((p+q)(p-q)=r^n\)という式から\(p+q,p-q\)はどちらも素因数\(r\)だけで構成されていることは(日本語として)分かるのですが、整数\(a,b\)を導入することでその先の議論を進めることが可能になっています。
2°)(素数)=(合成数)という式から矛盾を導く。
→本問では\(q = 2^{2l}-1= (2^l+1)(2^l-1)\)などとした後、矛盾導きました。
3°)素数の中では\(2\)のみが偶数であり、\(3\)以上の素数はすべて奇数の素数(奇素数ということが多い)である。特に奇素数か否かで場合分けをして議論することが多い。
→偶数と奇数では話が変わってくることがしばしばあります。
→本問でも\(r\)が\(2\)か奇素数かで場合分けをする場面がありましたね。
4°)\(\mathrm{mod}2,3,4,5,7,8\)あたりの剰余類を考える。
→近年の京都大学の入試問題によくあるように「素数であることを示せ」「素数になる条件を求めよ」の類の場合この手の議論をすることがほとんどです。どの剰余類に注目するかは実験により判断しましょう。慣れている方は直感的に有効な剰余類を判断できるでしょう。
→本問では\((p,q)=(2^m+1,2^m-1)\)と導いた後、2°)の因数分解の議論に落とし込みましたが、\(\mathrm{mod}3\)に注目して、\(2^m \equiv \pm1\)だから\(2^m+1,2^m-1\)の少なくとも一方が\(3\)の倍数になることから片方が\(3\)であり、\(m=1,2\)で適するのは\(m=2\)のほうで\((p,q)=(5,3)\)と絞り込んでも良いでしょう。
類題
(類題1)整数問題・因数分解とあまりに注目
(1)\(3^n=k^3+1\)をみたす正の整数の組\((k,n)\)をすべて求めよ。
(2)\(3^n=k^2-40\)をみたす正の整数の組\((k,n)\)をすべて求めよ。
(2010年 千葉大学・医学部)
解答・解説はこちらから→【入試数学演習No.14】今週の整数問題No.3 解答・解説 | Sacramy
(類題2)整数問題・因数分解
\(a\)を\(2\)以上の整数, \(p\)を\(3\)より大きい素数とする。ある正整数\(k\)に対して等式
\(a^{p-1}-1=p^k\)
が成り立つのは, \(a=2, p=3\)の場合に限ることを証明せよ。
(16 奈良県立医科大学 医学部 後期)
解答・解説はこちらから→【入試数学演習No.13】今週の整数問題No.2 解答・解説 | Sacramy
あとがき
最後までご覧いただきありがとうございました。Twitter上で毎週金曜日の夜にハッシュタグ「今週の整数問題」をつけて問題を投稿しています。是非解いてみてください!解説記事も順次作成していきます。
京都・大阪数学コンテスト公式HP:大阪府/京都・大阪数学コンテスト (osaka.lg.jp)
→平成26年度より年1度開催されている府内の高校生を対象とした数学のコンテストです。出題される問題の難易度は基礎的なものから数学オリンピックレベルのものまであり、論理的思考力並びに閃きを要する問題が中心となっています。
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「入試数学演習」一覧はこちらから→入試数学演習 | Sacramy
前回の整数問題は以下の記事からご覧になることができます。