目次
問題
(問題)
どんな正の数\(x,y\)に対しても不等式\((x+y)^4 \leq c^3 (x^4+y^4)\)が成り立つような\(c\)の範囲を求めよ.
(97 お茶の水女子大学・理学部)
方針
この手の不等式を見たことがない方は、まずどう思うでしょうか?\(x,y\)という2変数があり更には\(c\)の影響もあり単純に右辺と左辺を引き算して進めるわけにもいかなさそうです。とにかく今ネックになっていることは変数が2つと普段よりも多いことですので、変数を減らすことができないかと考えてみます。
そこで一つ目の解法として(\(x,y\)について対称なのでどちらか片方を)\(y\)を一定に固定した場合、この不等式が任意の\(x > 0\)に対して成立するような条件を考えれば良さそうです。ですが、実行してみると、\(x\)の4次関数を微分して文字定数が\(y,c\)と2つある中で極値問題を考えることになってしまいあまり現実的ではありません。(この方法で解けた方の報告を待っています。)
次に特に変数を減らす解法ではないのですが、上記の議論でもチラッと触れたように与式が\(x,y\)についての対称式であることに注目して\(x+y,xy\)を主人公として議論を進める方法も考えられますが、こちらも次数が4次ということもあり中々切り崩せそうにありません。
このままではあまり進めそうにないのでここで変数を減らすテクニックを1つ導入します。与式の非常に重要な特徴として、両辺の\(x,y\)の次数が等しいことが挙げられます。数学において、(厳密な定義はさておき)このように全ての文字の項の次数が一致している多項式のことを同次式(あるいは斉次式)といいます。この同次式に対しては以下のどちらかの操作を施すことで変数を1つにまとめることが可能です。
同次式(斉次式)の扱い方
以下\(x,y\)についての多項式\(f(x,y)\)が同次式であるとします。
①(\(y \neq 0\)を確認したあとで両辺を\(y\)で割り、)\(t=\frac{x}{y}\)とおく
→\(x,y\)についての条件を\(t\)に遺伝させるのを忘れないようにしましょう。本問であれば、\(x,y\)はどちらも任意の正の数ですので、\(t\)も任意の正の数となります。
②\((x,y)=r(\cos\theta,\sin\theta)\)とおく(\(r>0\),\(0 \leq \theta \leq 2\pi\))
→数Ⅲを既習の方は極座標表示を知っていると思います。(2次元だと平面上の点を原点からの距離と1つの軸からの偏角で測る座標のことです)この置換によって、同次式の場合には、\(r\)が上手いこと全て消えてくれて\(\theta\)の三角関数の1変数の問題に帰着させることができます。(→\(r\)が消える理由は(うまく言葉に起こせませんが)原点からの距離の比が等しいことが本質にあると思います。)
→本問では
上の①、②の両方を試しますが、②だと計算してみるとただちに三角関数の4次の項を扱わなければならないことが分かりちょっとしんどそうなのでいったん①に逃げましょう。
さて、①の考え方で進めていくといま、\(y > 0\)ですので両辺を\(y^4\)で文句なしに割ることができ、
\((\frac{x}{y}+1)^4 \leq c^3((\frac{x}{y})^4 + 1)\)
を得ますので、先ほどの変数変換:\(t=\frac{x}{y}\)を施すことで
\((t+1)^4 \leq c^3(t^4 +1)\)
となり、見事に1変数の問題に帰着させることができました。
あとは、任意の\(t >0\)に対して成立する条件を考えるのですから、右辺から左辺を引いたものを微分するもよし、数Ⅲ既習の方は\(c\)を右辺に定数分離することで左辺の関数の最大値を考えてもよいでしょう。解答ではこの2つの方法をまずは紹介していきます。いずれにせよ、最大値・最小値問題を考えることになります。
また、これ以外に技巧的に解く方法もあります。この問題を見た時にコーシー・シュワルツの不等式と見た目が似ているな、と思いませんでしたか?実はコーシー・シュワルツ不等式を2回連続で使用することで問題を解くことができます。(→というのもこの不等式自体が2次式同士の比較なので4次にもっていくには2ステップ必要だからです。)
自分の力で考えたい場合はここで一旦ストップして解いて解いてみてください。
それでは解答に入っていきます。
解答1(同次式+極値問題)
いま、\(y > 0\)より両辺を\(y^4\)で割ることができ、
\((\frac{x}{y}+1)^4 \leq c^3((\frac{x}{y})^4 + 1)\)
を得る。ここで、\(t=\frac{x}{y}\)とすることで、
\((t+1)^4 \leq c^3(t^4 +1)\)
\(x,y\)は任意の正の数だから\(t\)も任意の正の数を動く。
(右辺)-(左辺)が\(0\)以上であることに読み替えて、
\(c^3(t^4 +1)-(t+1)^4 \geq 0 \tag1\)
が成立する。(1)式の左辺を\(f(t)\)とおけば求める条件は以下のように言い換えることができる。
「任意の\(t >0\)に対して不等式\(f(t) \geq 0\)が成立する」\(\leftrightarrow\)「\(t >0\)における\(f(t)\)の最小値が\(0\)以上」
f'(t) &= 4c^3 t^3 -4(t+1)^3 \\ &= 4((ct)^3 -(t+1)^3)
\end{align}
となるから、
\(f'(t) \leq 0 \leftrightarrow ct \leq t+1\)
\(f'(t) \geq 0 \leftrightarrow ct \geq t+1\)
となるが、\(c \leq 1\)のとき\(t >0\)において常に\(ct \leq t+1\)となり上記の議論より、常に\(f'(t) < 0\)となり、\(t >0\)において\(f(t)\)は単調減少し、
\(\displaystyle \lim_{x \to \infty} f(x) = - \infty\)
となり題意の条件を満たさないから不合理。
いっぽう、\(c>1\)のとき、\(ct=t+1\)なる点のみで符号変化を起こし、その前後で\(f'(t)\)は負から正へと転じるので\(f(t)\)はその点で最小値を取ることが分かる。\(ct=t+1\)を解くと、\(t= \frac{1}{c-1}\)となるからその最小値は、
f(\frac{1}{c-1}) &= c^3((\frac{1}{c-1})^4 +1)-(\frac{1}{c-1} +1)^4 \\
&=\frac{c^3}{(c-1)^4} (1+(c-1)^4 -c) \\
&=\frac{c^3}{(c-1)^4} ((c-1)^3 -1) \\
\end{align}
となるから、最小値が\(0\)以上となる条件は
\(c-1 \geq 1\)つまり\(c \geq 2\)となる。(答え)
解答2(同次式+定数分離)
いま、\(y > 0\)より両辺を\(y^4\)で割ることができ、
\((\frac{x}{y}+1)^4 \leq c^3((\frac{x}{y})^4 + 1)\)
を得る。ここで、\(t=\frac{x}{y}\)とすることで、
\((t+1)^4 \leq c^3(t^4 +1)\)
\(x,y\)は任意の正の数だから\(t\)も任意の正の数を動く。
ここで定数\(c\)を右辺に分離することで、
\(\frac{(t+1)^4}{t^4 +1} \leq c^3 \tag1\)
が成立する。(1)式の左辺を\(f(t)\)とおけば求める条件は以下のように言い換えることができる。
「任意の\(t >0\)に対して不等式\(f(t) \leq c^3\)が成立する」\(\leftrightarrow\)「\(t >0\)における\(f(t)\)の最大値が\(c^3\)以下」\(\leftrightarrow\)「\(c^3\)は\(t >0\)における\(f(t)\)の最大値以上」
f'(t) &= \frac{(t^4 +1)\cdot 4(t+1)^3 - 4t^3 (t+1)^4}{(t^4 +1)^2} \\
&= \frac{4(t+1)^3 (t^4 +1 -t^3 (t+1))}{(t^4 +1)^2} \\
\end{align}
\(t>0\)より\(f'(t)\)の符号変化に関係する部分は、分子の2つめの()内の部分であり、\(f'(t)\)の符号は\(t^4 +1 -t^3 (t+1)=1-t^3=(1-t)(1+t+t^2)\)と同じであり、\(1+t+t^2 >0\)より、\(1-t\)と同じ。
\(t=1\)の前後で\(f'(t)\)の符号は正から負に転じるから\(f(t)\)は\(t=1\)において最大値を取る。その最大値は、
\(f(1)=\frac{2^4}{1+1}=8\)であるから、求める範囲は\(c^3 \geq 8\)つまり\(c \geq 2\)となる。(答え)
解答3(技巧的解法)
2項の場合のコーシー・シュワルツの不等式:
\((ax+by)^2 \leq (a^2+b^2)(x^2+y^2)\)
において\((a,b)=(1,1)\)を代入すると、
\((x+y)^2 \leq 2(x^2+y^2)\)
が成立する。この両辺は非負なので2乗しても同値であり、
\((x+y)^4 \leq 4(x^2+y^2)^2 \tag1\)
さらに、コーシー・シュワルツの不等式において\((a,b,x,y)=(1,1,x^2,y^2)\)を代入すると、
\((x^2+y^2)^2 \leq 2((x^2)^2 +(y^2)^2) = 2(x^4 +y^4) \tag2\)
が成立するので、(1),(2)式をまとめることで、任意の正の数\(x,y\)に対して、
\((x+y)^4 \leq 8(x^4 +y^4) \tag3\)
が成立することが分かる。
この不等式の等号成立条件は2つのコーシー・シュワルツの不等式の等号が同時に成立することだから、\(x=y\)であり、\(c^3 < 8\)とすると、\(x=y\)を満たし、かつ\(x \neq 0\)であるような\(x,y\)に対して不等式を満たさないから不合理。
逆に、\(c^3 \geq 8\)つまり実数範囲で\(c \geq 2 \)のとき(3)式より主張は成立する。
以上の議論より、求める範囲は\(c \geq 2\)である。(答え)
あとがき
最後まで閲覧していただきありがとうございました。
今回の入試問題解説のほう、いかがだったでしょうか。
数学では入試問題1問から学ぶべきことが多くあると思います。復習して解法をどんどんと溜めていきましょう!
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最終更新:2021 1/6(Wed.)